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ぐびじんそう

虞美人草

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《虞美人草(ぐびじんそう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 198,559 字 · 401 頁

青空文庫

上の静なるだけに下はすこぶる雑駁な世界である。

「おいおい」と大きな声で後から呼ぶ。

二十四五の夫人がちょっと振り向いたまま行く。

「おい」

今度は印絆天が向いた。

呼ばれた本人は、知らぬ気に、来る人を避けて早足に行く。抜き競をして飛んで来た二輛の人力に遮ぎられて、間はますます遠くなる。宗近君は胸を出して馳け出した。寛く着た袷と羽織が、足を下すたんびに躍を踊る。

「おい」と後から手を懸ける。肩がぴたりと留まると共に、小野さんの細面が斜めに見えた。両手は塞がっている。

「おい」と手を懸けたまま肩をゆす振る。小野さんはゆす振られながら向き直った。

「誰かと思ったら……失敬」

小野さんは帽子のまま鄭寧に会釈した。両手は塞がっている。

「何を考えてるんだ。いくら呼んでも聴えない」

「そうでしたか。ちっとも気がつかなかった」

「急いでるようで、しかも地面の上を歩いていないようで、少し妙だよ」

「何が」

「君の歩行方がさ」

「二十世紀だから、ハハハハ」

「それが新式の歩行方か。何だか片足が新で片足が旧のようだ」

「実際こう云うものを提げていると歩行にくいから……」

小野さんは両手を前の方へ出して、この通りと云わぬばかりに、自分から下の方へ眼を着けて見せる。