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ぐびじんそう

虞美人草

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《虞美人草(ぐびじんそう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 198,559 字 · 401 頁

青空文庫

「その――今の人とです」

「藤尾さんとかね。何時に」

「三時に停車場で出合うはずになっているんですが」

「三時と――今何時か知らん」

ぱちりと宗近君の胴衣の中ほどで音がした。

「もう二時だ。君はどうせ行くまい」

「廃すです」

「藤尾さん一人で大森へ行く事は大丈夫ないね。うちやっておいたら帰ってくるだろう。三時過になれば」

「一分でも後れたら、待ち合す気遣ありません。すぐ帰るでしょう」

「ちょうど好い。――何だか、降って来たな。雨が降っても行く約束かい」

「ええ」

「この雨は――なかなか歇みそうもない。――とにかく手紙で小夜子さんを呼ぼう。阿父が待ち兼て心配しているに違ない」

春に似合わぬ強い雨が斜めに降る。空の底は計られぬほど深い。深いなかから、とめどもなく千筋を引いて落ちてくる。火鉢が欲しいくらいの寒である。

手紙は点滴の響の裡に認められた。使が幌の色を、打つ雨に揺かして、一散に去った時、叙述は移る。最前宗近家の門を出た第二の車はすでに孤堂先生の僑居に在って、応分の使命をつくしつつある。

孤堂先生は熱が出て寝た。秘蔵の義董の幅に背いて横えた額際を、小夜子が氷嚢で冷している。