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ほたる

蛍

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《蛍(ほたる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,875 字 · 21 頁

青空文庫

お定は気分のよい時など背中を起してちょぼんと坐り、退屈しのぎにお光の足袋を縫うてやったりしていたが、その年の暮からはもう臥たきりで春には医者も手をはなした。そして梅雨明けをまたずにお定は息を引き取ったが、死ぬ前の日はさすがに叱言はいわず、ただ一言お光を可愛がってやと思いがけぬしんみりした声で言って、あとグウグウ鼾をかいて眠り、翌る朝眼をさましたときはもう臨終だった。失踪した椙のことをついに一言もいわなかったのは、さすがにお定の気の強さだったろうか。

お定の臥ていた部屋は寺田屋じゅうで一番風通しがよかった。まるで七年薬草の匂いの褐くしみこんだその部屋の畳を新しく取り替えて、蚊帳をつると、あらためて寺田屋は夫婦のものだった。登勢は風呂場で水を浴びるのだった。汗かきの登勢だったが、姑をはばかって、ついぞこれまでそんなことをしたことはなく、今は誰はばからぬ気軽さに水しぶきが白いからだに降りかかって、夢のようであった。

蚊帳へ戻ると、お光、千代の寝ている上を伊助の放った螢が飛び、青い火が川風を染めていた。あ、螢、螢と登勢は十六の娘のように蚊帳じゅうはねまわって子供の眼を覚ましたが、やがて子供を眠らせてしまうと、伊助はおずおずと、と、と、登勢、わい、じょ、じょ、浄瑠璃習うてもかめへんか。