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こうじん

行人

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《行人(こうじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 224,801 字 · 452 頁

青空文庫

などと聞くたびに院長は「ええまあそうです」ぐらいな単簡な返答をした。自分は平生解らない術語を使って、他を馬鹿にする彼が、院長の前でこう小さくなるのを滑稽に思った。

彼の病気は軽いような重いような変なものであった。宅へ知らせる事は当人が絶対に不承知であった。院長に聞いて見ると、嘔気が来なければ心配するほどの事もあるまいが、それにしてももう少しは食慾が出るはずだと云って、不思議そうに考え込んでいた。自分は去就に迷った。

自分が始めて彼の膳を見たときその上には、生豆腐と海苔と鰹節の肉汁が載っていた。彼はこれより以上箸を着ける事を許されなかったのである。自分はこれでは前途遼遠だと思った。同時にその膳に向って薄い粥を啜る彼の姿が変に痛ましく見えた。自分が席を外して、つい近所の洋食屋へ行って支度をして帰って来ると、彼はきっと「旨かったか」と聞いた。自分はその顔を見てますます気の毒になった。

「あの家はこの間君と喧嘩した氷菓子を持って来る家だ」

三沢はこういって笑っていた。自分は彼がもう少し健康を回復するまで彼の傍にいてやりたい気がした。

しかし宿へ帰ると、暑苦しい蚊帳の中で、早く涼しい田舎へ行きたいと思うことが多かった。