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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《街はふるさと(まちはふるさと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 頁

青空文庫

客席には微かな音もなく、長平の四囲からなんの気配も感じることができなかった。ただ左手が、かるく、あつく、女の手に握られているだけであった。

色仕掛かな。ローソクの趣向もそのせいかな、と、長平は思った。これから何事が起るのだろう。何かが起るに相違ないが、ただ成行を見ていることだ。握られた手のくすぐったい感触は彼の酔心持をなまめかしく掻きたてた。

光源は客席の前まで迫ったが、何事も起らない。光はいたずらに天井を駈けめぐり、光源はすでに後退をはじめた。ついに下座のドンヅマリへ後退した。光の動きがゆるやかになり、のろのろと天井を這い、光源の真上で止まる。すると、消えた。再び、真の闇。

女の指に力がこもった。三秒。五秒。グッと握りしめた。いよいよ。長平はつづくものを期待したが、握力はにわかに弛んだ。とけたのだ。何秒かの空白ののち、長平は自分の手がすでに誰にも握られていないことをさとった。

ポッと光った。下座がてらされている。新しい光源はアベコベに客席にあった。

下座の奥手に、何かポーズしているらしい女の素足がてらされている。膝から下しか見えない。光が徐々に上へうごく。