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ふくめんのぶとうしゃ
覆面の舞踏者
江戸川 乱歩
線上閱讀江戸川 乱歩《覆面の舞踏者(ふくめんのぶとうしゃ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,827 字 · 30 頁
私は何という馬鹿者でありましょう。
私は夜の明けるのを恐れました。もはや世間に顔の出せない気がします。私はこの次、どういう態度で井上次郎に逢えばいいのでしょう。また当の春子さんに逢えばいいのでしょう。私は青くなってとつおいつ、返らぬ悔恨に耽りました。そういえば、私は最初から相手の婦人にある疑いを持っていたのです。覆面と変装とに被われていたとはいえ、あの姿形は、どうしても春子さんに相違なかったのです。私はなぜもっと疑って見なかったのでしょう。相手の顔を見分けられぬ程も泥酔する前に、なぜ彼女の正体を悟り得なかったのでしょう。
それにしても、井関さんの今度のいたずらは、彼が井上と私との親密な関係を、よく知らなかったとはいえ、殆ど常軌を逸していると云わねばなりません。たとい私の相手が他の婦人であったにしても、許すべからざる計画です。彼はまあ、どういう気で、こんなひどい悪企みを目論んだのでありましょう。それにまた、春子さんも春子さんです。井上という夫のある身が、知らぬ男と暗闇で踊るさえあるに、このような場所へ運ばれるまで黙っているとは、私は彼女がそれほど不倫な女だとは、今の今まで知りませんでした。