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きく
親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選
山川 方夫
線上閱讀山川 方夫《親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選(きく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 67,486 字 · 144 頁
「ふん。……棒切れじゃないか、ただの」
自分の声の、慄えていないのがわかりました。私は靴尖きで、その棒切れを押してみました。なんの戦慄もなく、もちろんひとつもこわくはなく、むしろ、私はやっと真の自分を取り戻したような安定をおぼえました。私は、大きく呼吸を吐いて、そうして独りごちたのです。
――だから、私は屍体なんかこわくはないっていったんだ。私には、人間の生命ってやつが不気味なんだ。なにをしでかすかわからないし、それはおそろしく、むごたらしく、奇怪で、醜悪なものだ。私のこわいのは、それだ。私は、屍体じゃなく、そこに感じられる人間の、突拍子もない生命のふしぎさ、残酷さがこわかっただけの話なんだ。あんたも、いまこそ私の恐怖の正体がわかったろう。……
瘠せた小男は、いうだけのことはすべて話したという顔で黙りこんだ。机をはさんで彼の前に坐っている、制帽の男がたずねた。
――よし。これで調書はいい。……ところで、君の職業は?
――都の職員です。火葬場に勤めています。
――火葬場? ほう。すると、君は隠亡かね?
――世間ではそういいます。と、男は喉ぼとけをぎくぎくと動かしながら答えた。