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きく
親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選
山川 方夫
線上閱讀山川 方夫《親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選(きく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 67,486 字 · 144 頁
今日の宴に来ないだろうかとすら考えてはいなかったのだ。彼の発見は、女には意外といえば意外、思いがけぬことだったには違いなかった。
しかし、不思議と女には、なんの動揺もなかった。若い武士は、もはや女の心に小波ひとつ立てず、恐怖も、嫌悪も湧かなかった。ただ、女の胸に訪れてきたのは、春からのあの恋に心をわななかせつづけた日々、人形づくりに没頭してすごした自分の経てきた毎日への、なんともいえない不愉快な重苦しさ、途方もなく長い距離を歩いてしまったあとのような、けだるく漠然とした疲労の、奇妙に空ろなそのひろがりでしかなかった。
女は若い武士に近寄り、酒を注いでやった。こんどは花びらも散らず、武士もなにもいわなかった。案外、彼は翌年一月の、官位を得るための登用試験のことで頭がいっぱいなのかもしれない。やはり怒ったような顔で目を落していた。
そこからも、御所の雑色たちが丹精してつくりあげた、見事な一文字造りの大輪の菊の花の群れが眺められた。酒甕をもち歩を移してその波うつような黄白の色彩に目を注ぎながら、女は、今年ほどその菊の花に、春からの一つの季節の推移というものを、重く手ごたえのあるものとして感じたことはなかったような気がした。