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ちゅうもんちょう

註文帳

泉 鏡花

線上閱讀泉 鏡花《註文帳(ちゅうもんちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,770 字 · 67 頁

青空文庫

「お早うがすな。」と澄して土手の方へ行った。

積んだ薪の小口さえ、雪まじりに見える角の炭屋の路地を入ると、幽にそれかと思う足あとが、心ばかり飛々に凹んでいるので、まず顔を見合せながら進んで門口へ行くと、内は寂としていた。

これさえ夢のごときに、胸を轟かせながら、試みに叩いたが、小塚原あたりでは狐の声とや怪しまんと思わるるまで、如月の雪の残月に、カンカンと響いたけれども、返事がない。

猶予ならず、庭の袖垣を左に見て、勝手口を過ぎて大廻りに植込の中を潜ると、向うにきらきら水銀の流るるばかり、湯殿の窓が雪の中に見えると思うと、前の溝と覚しきに、むらむらと薄くおよそ人の脊丈ばかり湯気が立っていた。

これにぎょッとして五助、作平、湯殿の下へ駆けつけた時はもう喘いでいた。逡巡をする五助に入交って作平、突然手を懸けると、誰が忘れたか戸締がないので、硝子窓をあけて跨いで入ると、雪あかりの上、月がさすので、明かに見えた真鍮の大薬鑵。蓋と別々になって、うつむけに引くりかえって、濡手拭を桶の中、湯は沢山にはなかったと思われ、乾き切って霜のような流が、網を投げた形にびっしょりであった。