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はなしのくずかご

話の屑籠

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《話の屑籠(はなしのくずかご)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,252 字 · 11 頁

青空文庫

故人が愛玩した什器書画骨董の類や、故人の閲歴事業伝記のたぐいは、云わばその住宅を表から眺めた外観にすぎなくて、内部の生活は、裏口に廻って覗きこみ、茶の間にふみこんでみなければ、容易に分るものではない。その裏口が、茶の間が、反故の堆積のなかに、断片的にではあるが、まざまざと跡を留めている。

知人に、下宿屋をやってる婦人がいたので、私は時折訪れたことがあるが、一番面白いのは、月末の勘定書を拵える時にぶっつかることであった。台帳から書きぬかれたその勘定書に、一通り眼を通してみると、一種の生活的習癖ともいえるものが、まざまざと現われているのである。甲の人はやたらに鶏卵をたべている。乙の人はしきりに煙草をふかしている。丙の人はお茶ばかりのんでいる。そういう日常の些細な嗜好品を、一カ月分とりまとめて、一々書き並べてみると、その勘定書の紙面に、ふしぎとその人柄が髣髴としてきて、人の気付かぬ肖像を描きだしている。――単なる下宿屋の勘定書でもそうである。古葛籠のなかにつめこまれてる各種の反故に至っては、想像に余るものがあろう。

そういう各種の反故をつなぎ合せるのは、容易なことではない。