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かいのあなにかっぱのいること
貝の穴に河童の居る事
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《貝の穴に河童の居る事(かいのあなにかっぱのいること)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,260 字 · 32 頁
」
と翁が呼ぶと、栗鼠よ、栗鼠よ、古栗鼠の小栗鼠が、樹の根の、黒檀のごとくに光沢あって、木目は、蘭を浮彫にしたようなのを、前脚で抱えて、ひょんと出た。
袖近く、あわれや、片手の甲の上に、額を押伏せた赤沼の小さな主は、その目を上ぐるとひとしく、我を忘れて叫んだ。
「ああ、見えましゅ……あの向う丘の、二階の角の室に、三人が、うせおるでしゅ。」
姫の紫の褄下に、山懐の夏草は、淵のごとく暗く沈み、野茨乱れて白きのみ。沖の船の燈が二つ三つ、星に似て、ただ町の屋根は音のない波を連ねた中に、森の雲に包まれつつ、その旅館――桂井の二階の欄干が、あたかも大船の甲板のように、浮いている。
が、鬼神の瞳に引寄せられて、社の境内なる足許に、切立の石段は、疾くその舷に昇る梯子かとばかり、遠近の法規が乱れて、赤沼の三郎が、角の室という八畳の縁近に、鬢の房りした束髪と、薄手な年増の円髷と、男の貸広袖を着た棒縞さえ、靄を分けて、はっきりと描かれた。
「あの、三人は?」
「はあ、されば、その事。」
と、翁が手庇して傾いた。
社の神木の梢を鎖した、黒雲の中に、怪しや、冴えたる女の声して、