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かいなべのうた

貝鍋の歌

中谷 宇吉郎

線上閱讀中谷 宇吉郎《貝鍋の歌(かいなべのうた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 1,770 字 · 4 頁

青空文庫

北海道の日本海沿岸では、どこでも、いくらでもとれる愚魚である。太平洋岸でもとれるのかもしれないが、それはどうでもよい。

近海で多量にとれる魚であるから、少し気をつけていると、水から揚がったばかりのようなあたらしいのが、市場の魚屋などにもよく出ているらしい。細君は、みつかり次第買ってくるようであった。どんな愚魚でも、あたらしい魚はうまい。貝鍋に昆布を一枚しき、このほっけの切身と豆腐を入れ、せりか三つ葉の青味を少し加えて、湯でくつくつと煮る。味つけは、うすくちの醤油を数滴たらすだけ。

初めのうちは、淡泊というよりも、味もそっけもないといってもいいくらいの味である。この味のない肴をはさみながら、ゆっくりと酒をのむ。汁はまもなく煮つまってくる。銅壺の湯をたびたびさし、ときどき醤油をたらし込みながら、煮ていると、次第に味が出てくる。

その頃になると、酒も適当にまわり、その味がよくわかるようになる。それはまことに不思議にも微妙な味で、相当味が濃くなってきても、少しもしつこくはならない。二時間くらいも食べつづけていて、いつまでも味の新鮮さを失わない鍋ものは、他にちょっと思い当らない。