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へんさいじょき
貢太郎見聞録
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《貢太郎見聞録(へんさいじょき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 29,162 字 · 59 頁
という鰻屋に往ったところで、若い鼻眼鏡の委員の一人が興に乗って、ビールのカップや猪口に歯を当てて噛み砕いて酒をあおった。私はその友人の紅い唇などを思い浮べて独りで笑い心地になっていたが、急に四辺がひっそりとなったので、不思議に思って眼を開けた。うす暗かった家の内が明るくなって、草藪の上に陽の光が射していた。私は起きあがって表に向いた方の雨戸を開けた。
磨きをかけたような藍色の空にうす鼠色の雲が動いていて、暑い陽の光が風に吹きちぎられたようにぎらぎらと漂っていた。私の家の玄関口からは二三十間も前になった街路に面した総門越しに眼をやると、街路の向う側の藤寺の墓地の樹木が微風に揉まれていた。その樹木の中には欅があり、向う隣の二階家の屋根の上に見える一本の白楊は、葛の葉のような白い裏葉を見せていた。その二階家の向うは総門の左側の角になって、木造の青ペンキ塗りの古いシナ人の下宿があった。墓地の樹木は崖の上の樹木に続いて、その間に一軒の高い窓の家は下宿屋であった。下宿屋の上の家並は大塚の電車通りに沿うた人家で、総門の右側には雑貨店をやっている小学校の校長の住んでいる二階家があって、その向うには墓地の続きになった所に建った大きな建物の簷が僅かに見えていた。