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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《赤ひげ診療譚(あかひげしんりょうたん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 21,864 字 · 44 頁

青空文庫

の大事な、たった一人の娘だって、――」おくにの声は細くなり、ひどくふるえを帯びた、「おれの大事な、たった一人の娘だって」

彼女の眼から涙がこぼれ落ちた。だが、おくにはそれを拭こうともせず、こぼれ落ちるままにして語り続けた。

父親のようすを見て、おくにの恐怖は去った。彼女はもう十三になっていたのだ。三つの年から里子にやられて、いっしょに暮したのは二年ほどである。親子という愛情も、まだはっきりとは感じていなかった。

――いやです、あたしおっ母さんといっしょにいます。

おくにははっきりそう云った。

六助は暫くおくにを見まもっていたが、ではなにか困ったことがあったらおいで、おまえのためならどんなことでもしてやるから、そう云ってたち去った。おくにはそのことを母にも富三郎にも黙っていた。父はもう二度と来ないだろうと思ったから、――事実、それから十年も、六助は姿をみせなかった。そしておくには十六の夏、母にしいられて富三郎と夫婦になった。自分ではいやでたまらなかったが、母に泣いてくどかれた。

――そうしなければおっ母さんといっしょにいられなくなるんだから。

おっ母さんのためだと思って承知しておくれ、そう繰り返して説き伏せられた。