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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《赤ひげ診療譚(あかひげしんりょうたん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,384 字 · 41 頁
「赤髯です」と津川はささやき、登に一種の眼くばせをして、それから障子をあけた。
そこは六帖を二つつなげたような、縦に長い部屋で、向うに腰高窓があり、左右は三段の戸納になっていた。古くて飴色になった樫材のがっちりしたもので、上の二段は戸納、下段は左右とも抽出になっている。もちろん薬がしまってあるのだろう、抽出の一つ一つに、薬品の名を書いた札が貼ってあった。――窓は北向きで、煤けた障子が冷たい光に染まっており、その光が、こちらへ背を向けた老人の、逞しく広い背や、灰色になった蓬髪をうつしだしていた。
津川玄三が坐って挨拶をし、保本登を同道したことを告げた。老人は黙ったまま、小机に向かってなにか書いていた。鼠色の筒袖の袷に、同じ色の妙な袴をはいている。袴というよりも「たっつけ」というほうがいいだろう、腰まわりにちょっと襞はあるが、脛のほうは細く、足首のところはきっちり紐でしめてあった。
その部屋には火桶がなかった。北に向いているので、陽のあたることもないのだろう、薬臭い空気はひどく冷えていて、坐った膝の下から、寒さが全身にのぼってくるように感じられた。やがて、老人は筆を措いて、こちらへ向き直った。