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しゅみのいでん
趣味の遺伝
線上閱讀夏目 漱石《趣味の遺伝(しゅみのいでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 38,235 字 · 77 頁
この情緒は藪を後ろにすっくりと立った女の上に、余の眼が注がれた時に毫も矛盾の感を与えなかったのみならず、落葉の中に振り返る姿を眺めた瞬間において、かえって一層の深きを加えた。古伽藍と剥げた額、化銀杏と動かぬ松、錯落と列ぶ石塔――死したる人の名を彫む死したる石塔と、花のような佳人とが融和して一団の気と流れて円熟無礙の一種の感動を余の神経に伝えたのである。
こんな無理を聞かせられる読者は定めて承知すまい。これは文士の嘘言だと笑う者さえあろう。しかし事実はうそでも事実である。文士だろうが不文士だろうが書いた事は書いた通り懸価のないところをかいたのである。もし文士がわるければ断って置く。余は文士ではない、西片町に住む学者だ。もし疑うならこの問題をとって学者的に説明してやろう。読者は沙翁の悲劇マクベスを知っているだろう。マクベス夫婦が共謀して主君のダンカンを寝室の中で殺す。殺してしまうや否や門の戸を続け様に敲くものがある。すると門番が敲くは敲くはと云いながら出て来て酔漢の管を捲くようなたわいもない事を呂律の廻らぬ調子で述べ立てる。これが対照だ。対照も対照も一通りの対照ではない。