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しゅみのいでん

趣味の遺伝

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《趣味の遺伝(しゅみのいでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 38,235 字 · 77 頁

青空文庫

とうとう取り逃がした。仕方がない、御母さんに逢って話をして見よう、ことによったら容子が分るかも知れない。

三

六畳の座敷は南向で、拭き込んだ椽側の端に神代杉の手拭懸が置いてある。軒下から丸い手水桶を鉄の鎖で釣るしたのは洒落れているが、その下に一叢の木賊をあしらった所が一段の趣を添える。四つ目垣の向うは二三十坪の茶畠でその間に梅の木が三四本見える。垣に結うた竹の先に洗濯した白足袋が裏返しに乾してあってその隣りには如露が逆さまに被せてある。その根元に豆菊が塊まって咲いて累々と白玉を綴っているのを見て「奇麗ですな」と御母さんに話しかけた。

「今年は暖たかだもんですからよく持ちます。あれもあなた、浩一の大好きな菊で……」

「へえ、白いのが好きでしたかな」

「白い、小さい豆のようなのが一番面白いと申して自分で根を貰って来て、わざわざ植えたので御座います」

「なるほどそんな事がありましたな」と云ったが、内心は少々気味が悪かった。寂光院の花筒に挿んであるのは正にこの種のこの色の菊である。

「御叔母さん近頃は御寺参りをなさいますか」

「いえ、せんだって中から風邪の気味で五六日伏せっておりましたものですから、ついつい仏へ無沙汰を致しまして。