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あしがるほうこう
足軽奉公
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《足軽奉公(あしがるほうこう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,949 字 · 28 頁
藤六には忠秋の冷笑する顔がみえるようだった、――おれは我儘者だ、思ったことは必ずやりとおしてみせる、そう云った声音までがまざまざと耳に甦ってきた。
「……これは尋常なことではいかんぞ」
かれは即座に心をきめた、火桶の火を埋め、身支度を直し、久しく長押に掛けたままの愛槍をとり下ろすと、燈火を消して住居を出た。
今日まで共に艱難辛苦をして来た妹を、このような不幸な結果におとすなら、寧ろいさぎよくお浜館の前で兄妹ともに命を捨てるべきだ。槍を持って出たのは、むろん忠秋に手向うためではない、妹を刺し、おのれが自裁する用意であった。……蓑をまとい笠を傾げて、湖畔の道を浜館まで小走りにいった。門は八文字に開かれている、人はみえない、玄関へかかろうとしたが、用心して横手からお庭へまわった。諏訪の湖を岸にとりいれて、泉石の結構美しい庭である、雪に埋れた築山をまわって、御殿のほうへゆくと、泉殿風になっている離れの建物に明々と燭が輝き、酒宴でも催しているとみえ、笑いさざめく人声が賑やかに聞えてきた。――ここだ、藤六は槍の鞘をはらい、しずかにそちらへ近寄った、そして広縁へとび上りざま、障子を二枚、さっと左右へ押しひらいた。