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どうひょう

道標

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《道標(どうひょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 頁

青空文庫

「どうぞ」

デスクに向いたまま伸子は返事した。

「よろしいですか」

ドアから半身あらわしたのは、伸子たちのいる下宿の主人であるルケアーノフだった。伸子は、ちょっと瞬きした。彼女たちが越して来てから、主人のルケアーノフが自身で室へ訪ねて来たという前例がまだなかった。

「おはいり下さい、どうぞ」

デスクの前から立って伸子はドアのところへ出て行った。ルケアーノフは、ドアのノッブに片手をかけたまま、

「あなたおひとりですか」

ときいた。

「吉見さんは、正餐に帰って来ます」

ルケアーノフは、栗色の髪がうす禿になっている顔をすこしかしげ、何か考えたが、

「よろしいです」

いそいでいるが、待とうと決心した口調で云った。

「では、正餐のあとで――」

「御都合がよかったら、わたしたちが、あなたのところへ行きましょうか」

「わたしが来ます、では、のちほど」

ドアをしめて去ったルケアーノフの靴音が、食堂につかわれている隣室のむき出しの床の上に暫くきこえて、やがてクワルティーラじゅうがひっそりとした。

何かがおこっている。――ルケアーノフと伸子たちとにとって、何か愉快でないことが。その予感を疑うことは出来なかったが、伸子には、たしかに愉快でないにちがいないことの内容が、推察されなかった。