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どうひょう

道標

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《道標(どうひょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 頁

青空文庫

朝の茶を終ったばかりの伸子たちの室の戸がノックされた。素子が大きな声で、

「お入りなさい」

とロシア語で云った。

ドアがあいて、そこに現れたのは黒っぽい背広をきた吉之助だった。

「ただいま!」

吉之助は、ベルリンへ行けるときまったとき、見て来ます、と簡明に力をこめて云った、あの調子でただいまと云った。

「ゆうべ帰って来ました、こんどはここへ部屋をとりましたからどうぞよろしく」

握手の挨拶をしながら伸子が、

「ひどく早かったんですね」

と、おどろいた。

「そんなに早くいろんな芝居が見られたの?」

「ええ。マチネーと夜と必ず二度ずつ見ましたから」

素子は、思いがけず吉之助の姿があらわれたのを見てかすかに顔を赧らめていたが、しっとりした調子で、

「何時についたんです」

ときいた。

「よく部屋がとれましたね」

「ええ。カントーラ(帳場)の人が顔をおぼえていてくれましてね。パジャーリスタ、コームナタ(どうぞ、部屋)って云ったら、ハラショー、ハラショーでした」

「どこです?」

「この廊下のつき当りの左の小さい室です」

「ああ、じゃあ一番はじめわたしたちがいた室だ。ね、ぶこちゃん」

それは雪の夜アーク燈にてらされて中央郵便局の工事場が見えた部屋だった。