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どうひょう

道標

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《道標(どうひょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 頁

青空文庫

そして、入れちがいに、戸をしめて、室の外へ出た。

いつものとおりしずかな狭いホテルの廊下の階段よりのところに、ふちのぴらぴらした、日本の氷屋のコップのようなかさの電燈がついている。その下の明るい場所へ椅子をもち出して、ホテル女中のシューラが、白金巾に糸抜細工をやっていた。室を出た伸子は、そばへ行って、手摺にもたれた。シューラは、手を動かしつづけながら、

「御用ですか」

ときいた。

「いいえ。何でもないの」

今夜も伸子は白いブラウスの上に日本の紫羽織をひっかけていた。

「ここは寒くないの」

「暖くはありませんよ――」

毛がすりきれて、編みめののびた古い海老茶色のジャケツを着て、薄色の髪をかたく頸ねっこに丸めているシューラはやせていた。小さな金の輪の耳飾りをつけているシューラの耳のうしろは骨だってやつれが目立った。伸子は、自分につかえるわずかの言葉で話すために骨を折りながら、

「シューラ、あなた、丈夫?」

ときいた。

シューラは、糸抜細工から目をあげないままで、

「わたしは肺がわるいです」

と云った。

「肺、わかります? ここ――」

そう云いながら、ボタンの一つとれたジャケツの胸をさして伸子を見あげた。