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とおののきぶん
遠野の奇聞
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《遠野の奇聞(とおののきぶん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,768 字 · 10 頁
またこの物語を読みて感ずる処は、事の奇と、ものの妖なるのみにあらず。その土地の光景、風俗、草木の色などを不言の間に聞き得る事なり。白望に茸を採りに行きて宿りし夜とあるにつけて、中空の気勢も思われ、茸狩る人の姿も偲ばる。
大体につきてこれを思うに、人界に触れたる山魅人妖異類のあまた、形を変じ趣をこそ変たれ、あえて三国伝来して人を誑かしたる類とは言わず。我国に雲のごとく湧き出でたる、言いつたえ書きつたえられたる物語にほぼ同じきもの少からず。山男に石を食す。河童の手を奪える。それらなり。この二種の物語のごときは、川ありて、門小さく、山ありて、軒の寂しき辺には、到る処として聞かざるなき事、あたかも幽霊が飴を買いて墓の中に嬰児を哺みたる物語の、音羽にも四ツ谷にも芝にも深川にもあるがごとし。かく言うは、あえて氏が取材を難ずるにあらず。その出処に迷うなり。ひそかに思うに、著者のいわゆる近代の御伽百物語の徒輩にあらずや。果してしからば、我が可懐しき明神の山の木菟のごとく、その耳を光らし、その眼を丸くして、本朝の鬼のために、形を蔽う影の霧を払って鳴かざるべからず。