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とおのへ

遠野へ

水野 葉舟

線上閱讀水野 葉舟《遠野へ(とおのへ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 55,903 字 · 117 頁

青空文庫

自分はまた言葉がよく通じない、と思って、口を噤んだ。そして、その儘立って、カバンから着物を出した。

こんどの旅では、花巻に泊った晩から、幾度も、この言葉が通じないので困らされた。

着物を着換えてしまって、S君と向い合って炬燵にはいった。次第に落ちついてくると、何と言いようのない夜更けのしずけさが感じられる。室の中が見廻わされる。寒さが襟元からひしひしと沁み込んでくる。

広い室に、小さいランプがともされているので、すみずみが薄暗い。障子も、柱も黒く、天井がばかに高い。寺の中にでもはいったような心持ちがする。

炬燵の傍には古風な棚が置いてある。それに四五冊、S君の手馴れた本が立ててあった。その傍に自分に当てて来た、手紙や雑誌も十五六置いてあった。自分が、所々を歩るいているうちに、この三月も半ば経ってしまったが。

さて、いよいよここに着いて見ると、種々の人から自分に宛てた手紙が今更たくさんたまっていた。

自分はそれを貪るようにして読んだ。自分はこの半月、まったくその前の生活と関係の絶えた時を過ごした。そしていままた、その前に帰り接したような心持ちになった。