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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,251 字 · 39 頁

青空文庫

円枝が、きょとんとして、答えた。

「へえ。あっしは、武右衛門さんに高座を渡して、ずっとこの裏の溜りで馬鹿っ話をしておりました。すぐ帰るつもりだったんですが、来る途中、下駄の緒を切らしてしまって、楽屋番の銀おやじがすげていてくれるんですけれど、それがなかなか立たねえので――今も、待っているところでございます。」

おこよは、静かな眼を藤吉の顔に据えて、しとやかにうなずいた。

「おまはんに訊くが」と、藤吉はおこよへ、「廊下に、誰も見かけなかったかね?」

「はい。武右衛門さんが高座を下りて、この前を通って行ったきりで――。」

「そりゃあわかってらあな。」

「しばらくして、藤吉どん――出方の藤どんが、おもてから来たようでしたが、そのとき、師匠と一しょに、わたしはこのつぎの間の化粧部屋へはいりましたので、後のことは――。」

「いまはじめて武右衛門の――騒ぎを知りなすった?」

「さようでございます。」

おこよと円枝が、一緒に答えると、藤吉はじっと口びるを咬んでいたが、

「竹久の師匠は――?」

「溜りに、出を待っております。」

「ほかに、この辺に人はいなかったといいなさる。」

「はい。