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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 頁

青空文庫

あれを忘れて行って、見す見すあのひょっとこ野郎の手に返すのは業腹じゃないか」

あの黄金の環の重要性を、平次は忘れるわけに行かなかったのでした。

「それじゃ、あっしが戻りましょう」

「いや、俺よりお前の方が足が早い。その代り五重の塔を駆け登るのには、身体の軽い俺の方が早かろう」

「そうですか、じゃ、親分」

「頼んだぜ」

そういううちにも平次は、早くも五重の塔の中に飛び込んで、二階へ飛びついているのでした。それを見送って八五郎は、言葉せわしくお山の役人達や駆り集めた人足に別れを告げ、五人の下っ引だけを連れて、夕暗の街を、神田明神下まで逸散に飛びます。

その間に平次は二階へ三階へ五階へと、何んの支障もなく登りました。足元は次第に覚束なくなりますが、五階の頂上は幸い薄明りが残って、六つの箱が口を開いたままよく見えます。

六つの箱が口を開いたまま――平次はその数を読んでギョッとしました。先刻まで口を開いていた箱は五つで、六つ目の新らしい箱、あの黄金の環を滑り込ませた箱は、確かに口は開けていなかった筈です。

「?」

今は金具を厳重に打った五つの金箱も、六つ目の金具のない新らしい箱も、明らかに口を開けて、中は夕闇のうちにも、塵一つない空っぽなことは、幾度見直しても同じことでした。