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うし

鎧櫃の血

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《鎧櫃の血(うし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,702 字 · 99 頁

青空文庫

夫婦はいつもの時刻に寝床を出て、なにげない顔をして、朝食の膳にむかったが、お此の顔は青かった。お元もけさは気分が悪いと言って、ろくろくに朝飯を食わなかった。その顔色も母とおなじように青ざめているのが、七兵衛の注意をひいた。

その日も降り通して薄暗い日であった。午過ぎにお元は茶の間へしょんぼりとはいって来て、両親の前に両手をついた。

「まことに申訳がございません。どうぞ御勘弁をねがいます。」

だしぬけに謝られて、夫婦も煙にまかれた。それでも七兵衛はしずかに訊いた。

「申訳がない……。お前は何か悪いことでもしたのか。」

「恐れ入りました。」

「恐れ入ったとは、どういうわけだ。」

「わたくしは……。お家の娘ではございません。」と、お元は声を沈ませて言った。

夫婦は顔を見あわせた。取分けて七兵衛は自分の耳を疑うほどに驚かされた。

「家の娘ではない……。どうしてそんなことを言うのだ。」

「わたくしは江戸の本所で生れまして、小さい時から両親と一緒に近在の祭や縁日をまわっておりました。お糸というのがやはり私の本名でございます。わたくし共の一座には蛇つかいもおりました。鶏娘という因果物もおりました。