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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《長屋天一坊(ながやてんいちぼう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 頁
「このこの、この、いや、こ、こ」
吾助は、がたがたと震えだした。
その金襴の袋というのが、実はぼろ市で買った古物の袈裟の切っ端で、源兵衛のかみさんが苦心して――と云うのが糸を強く緊めるとそこから裂けるほど脆けていたので――袋に縫ったものだとは気がつかなかったものである。
吾助は恭敬の身ぶりで押頂いたのち、書付を取出して披見した。それには箆棒に凝った筆法で、いかめしく左のような文章が記述してあったのである。
記証文の事
其許に契り候こと実証なり。可愛き可愛き其許を思えば、一日既に千秋。千里なお一里。粉骨砕身也。男子出生のみぎりにあるなれば、余が末孫に紛れなく候。後日のため垢付きの家宝の短刀ひとふり、証拠のために遣わし候。右実証に候也。
佳年祥月吉日よしちか印
かめ殿
「これは本筋だ、本筋どころではないて」
吾助は克己心を呼び起こし、極力このところ沈着になろうと努めつつ、こんどは袋の中から、これまた謹厳に一礼して、短刀を出して見た。これも古ほうけた品だった。
第一に寸法が規格外れである。製作者が脇差にしようか短刀にしようかと迷ったあげく、どっちにする決心もつかず、さりとて中途で止めるわけにもいかないため、まあともかくもということで、そらを使って仕上げたといったものに相違ない。