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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《長屋天一坊(ながやてんいちぼう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 頁
吉近侯にあっては切実なる未練に捉われ、手を尽して捜索されたが行衛のところは皆目不明、本家伊賀守を相続された今日においてなお、
――彼女は今頃はどこにどうしていられるやら、生れた子は男か女か、ああ世は果敢なきありさまよな。
右の如く常々長々長大息を漏らされありということであった。すなわち、係り家来としては書付も短刀も精密検査に及ばず、ただ「御落胤出現」なる一事を以て俄然いろめき立ったものだろう。但しかかる事件は家督問題に重なるところの関連がある、そこは取扱い上つねに深甚なる謀略を要するので、係り家来は吾助に向い、
「御身分に就いては、厳に秘密を守るべし、追って手順を考案し、正当なる方式を以て御当家へお迎え申すべければ、最も鄭重尊崇の念を忘れず、暫時があいだ其の方に於てお預かり申し奉るべし、決して御不自由ないし御不快を相掛けざるよう、屹度申付け候もの也」
こう厳命を下し、なお且つ金十枚を下げ渡されたという実情である。吾助の驚喜に就いては、これも演者として講演は不必要だと思う。
ごうつくはなお疑いを解かなかったが、金十枚に対しては信頼してもいいらしかった。