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がん
雁
線上閱讀森 鴎外《雁(がん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 73,950 字 · 147 頁
朝飯の膳を台所から運んで来た梅が、膳を下に置いて、「どうも済みません」と云って手を衝いた。
箱火鉢の傍に据わって、火の上に被さった灰を火箸で掻き落していたお玉は、「おや、何をあやまるのだい」と云って、にっこりした。
「でもついお茶を上げるのが遅くなりまして」
「ああ。その事かい。あれはわたしが御挨拶に云ったのだよ。檀那はなんとも思ってはお出なさらないよ」こう云って、お玉は箸を取った。
けさ御膳を食べている主人の顔を梅が見ると、めったに機嫌を悪くせぬ性分ではあるが、特別に嬉しそうに見える。さっき「何をあやまるのだい」と云って笑った時から、ほんのりと赤くった頬のあたりをまだ微笑の影が去らずにいる。なぜだろうかと云う問題が梅の頭にも生ぜずには済まなかったが、飽くまで単純な梅の頭にはそれが根を卸しもしない。只好い気持が伝染して、自分も好い気持になっただけである。
お玉はじっと梅の顔を見て、機嫌の好い顔を一層機嫌を好くして云った。「あの、お前お内へ往きたかなくって」
梅は怪訝の目をった。まだ明治十何年と云う頃には江戸の町家の習慣律が惰力を持っていたので、市中から市中へ奉公に上がっていても、藪入の日の外には容易に内へは帰られぬことに極まっていた。