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ゆきのうえのしも

雪の上の霜

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《雪の上の霜(ゆきのうえのしも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 頁

青空文庫

「いいえもう仰しゃいますな」おたよは笑いながら遮った、「――此処でおちつくにせよ、また旅へ出るにせよ、わたくしの仕合せには少しも変りはございません、どうぞあなたのお心の済むように、決してむりな辛抱をなさらないように、それだけをお願い申しますわ」

伊兵衛は悲しげに頬笑み、そして黙って頭を下げた。

道場に住込むということも、おたよは承知した。七日にいちど帰る条件も必要がない、変ったことがあれば知らせるから、休日にでも戻って呉れれば充分である。こういうことで、その翌日、身のまわりの物を持って、彼は箕山へと立っていった。

峠を越えたのが十時ころであろう、そのままくだって、仲山の宿へかかろうとすると、宿の手前のところで、なにか騒ぎが起こっていた。馬が五頭うろうろし、侍たちと馬子らしいのが、声だかになにか云いあっていた。

――おやおや、あれは土橋の権六じゃないか。

馬子たちの一人を見て、伊兵衛はこう呟きながら、近よっていった。

――いやどうも、崖下の勘太もいるぞ。

ほかにも峠でやり合って、記憶のある顔がみえる。こんどは侍たちに文句をつけているのか。こう思いながら側までいった。