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でんしゃていりゅうじょう
電車停留場
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《電車停留場(でんしゃていりゅうじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,082 字 · 31 頁
彼の今の出世も、昔苦学をしていた頃その恋人に捨てられた後の、発奮の賜物ではあったけれど、そのまま怨恨だけが胸の奥に巣喰ってたものらしい。それが突然顔を出してきて、彼の論告をめちゃめちゃにした。彼は酌量すべき情状の方を飛び越して、代りに一般道徳論を※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)入し、その峻烈な而も何処か辻褄の合わない論告を、重い求刑の言葉で結んだ。可なり意外な空気が法廷に漂った。そして彼自身が最もその空気を鋭敏に感じた。彼は法廷を出ると、悪夢からさめたようにほっとした。昔の恋人の幻が消えて、失策をしたという意識だけが残った。それを今後の立論で補うことにして、一先ず理知的の落付きは得たが、当座の心の落付きがどうも得られなかった。裁判所の室で遅くまで時間を過し、それから銀座の方を歩き廻った。そしてるうちに、不思議な――然し彼にとっては至って自然な――方向へ心が向いてきた。何かしら人間間のごたごたした諍いを止めさして、互に手に手を握り合わせるようなことを、自分の力でしてみたくなった。温和な論告をした後には峻厳な心持になり、峻厳な論告をした後には温和な心持になるのが彼のいつもの心理だった。