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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《青べか物語(あおべかものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 頁
雲が月のおもてにかかると、そのときだけはあたりがほの暗くなるが、雲が去ると、これらの風景ぜんたいが、明るくて青い、水底の中にあるように眺められた。
幸山船長は船長の席にあがって腰を掛け、両手で舵輪を握って、ちょっと左右へ廻してみた。それから、すぐ右にある打金の紐を引いて、ちん、と鳴らし、ちんちん、と鳴らし、一つ鳴らして次にすぐ二つ鳴らしてみた。
「ゴースタン、これが合図だっただよ」と船長は云った、「永島へ船が近くなると、こう鳴らしてゴースタンとどなる、それからスローアヘーとどなってこう鳴らすだ、――おらが二十九号の船長になってからだがね」
彼は三十五で船長になった。水上と土堤との三百メートルの逢曳きは続いていたのだ。むろんずっとではない、どちらかの都合で相当な期間、お互いに姿を見ないこともあった。そのあいだに彼女は三児の母となり、彼のほうでは妻に死なれた。けれども、実生活の煩瑣な用事に邪魔をされながら、そうすることができる限りは姿を見せあった。――二人はそれ以上に出ようとはしなかった。彼は永島へは近よったこともない、彼女が長く姿を見せないとき、病気ではないかと心を痛める。