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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《青べか物語(あおべかものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 頁

青空文庫

もちろん、所属の船会社の名簿には記載してあるだろうし、ことによれば町役場の戸籍簿にも記録されているかもしれない、だが、日常生活ではそんなことはどっちでもよかった。――三十二号船の「銀」といえば、徳行でも浦粕でも誰より娘たちにもてる若者、として知らない者はなかった。徳行や浦粕だけではない、通船の航路にあるすべての発着所と、その界隈にまで知られていたというべきだろう。――その発着所の多くに、三十二号船を待ちかねている娘たちがいて、それぞれなにかしら彼に贈り物をした。ここでは一例だけあげるが、水夫は甲板勤務のときに麻裏草履をはくので、贈り物ではそれがもっとも多く、彼の手許にはいつも、新しいのが十五六足もあった。中には手作りで、ひどくしゃれたのや、凝った品があり、そうでなくとも、鼻緒の色だけは贈りぬしによって違っていた。念を押すまでもなく、それは娘たちの自己主張であり、他の娘たちへの対抗意識のあらわれであろうが、銀公はその鼻緒の色によって、贈りぬしを判然と区別することができた。

たとえばこうだ。――三十二号船がAの発着所へ近づくとき、彼はそこに待っている娘の贈った草履をはいていて、極めてさりげなく、その草履をはいていることを相手に認めさせる。