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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《青べか物語(あおべかものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 頁
耳も眼も口もすばしっこく、学校の勉強のほかはなにごとによらず、なかまにひけを取ったことのない長は、唇の隅に唾を溜め、さかしげな眼をくりくりさせながら語った。
その男はなにもしない。父親が死んだあと、魚屋の店は母親と男の妻とで、三人の若者を使って立派にやっている。――男は朝起きるとすぐ、蒸気河岸まで水汲みにゆき、帰って来るとその水で洗面にかかる。第一の手桶の水で歯を磨き、第二の手桶の水で顔を洗うのだが、どちらの手桶の水もむだにせず、ゆっくりと、丁寧に、飽きることなく磨いたり洗ったりする。これだけで半日つぶれてしまい、それから朝めしを喰べるので、たいてい午後になるのが普通である。――それから二階へあがって蓄音器をかけるか、飴をしゃぶりながら町を歩く、というのが変らない日課である。
「おっかしいのよ」と長は嘲笑した、「晩になるとな、おっかあに風呂へ入れてもらって、躯あすっかり洗ってもらって、寝るときにも抱いてねかしてもらうだってよ、それでよ、おっかあに抱かれて寝てもよ、ただ眠るだけでなんにも」
私はいそいで話題を変えた。この並みはずれてすばしこい少年は、私などのまだよく知らない、もの凄いようなことを平気で云う癖があった。