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せいしゅんのぎゃくせつ

青春の逆説

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《青春の逆説(せいしゅんのぎゃくせつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,593 字 · 325 頁

青空文庫

購読者だけでなく、宣伝用に無料で送附する同業者の宛名も書くので、なかなか捗らなかった。一々……畳店と畳の字を入れなければならぬのだが、畳という字が画が多くてやり切れなかった。六号活字でぎっしりと詰めて印刷してある同業者名簿をながめて、しきりに溜息をつき、また柱時計を何度も見上げた。正午のサイレンが鳴るまで、四百枚書いた。

最初決めていた枚数より少し多かったので、ちょっと気持よかったが、直ぐ無意味な快感だと、馬鹿らしい気持になった。

「お昼飯にしとおくれやんす」

奥座敷から妻君の声がしたので、豹一はほっとして表へ出た。勝山通八丁目まで行って、飯屋で労働者にまじって十二銭の昼食をたべたあと、喫茶店の長椅子の上で死んだようになって横たわっていた。一時になると、帰って再び帯封を書き出した。西日が射し込んで来て、じっとりと額に汗がにじんだ。右の手がまるで自分のものとも思えぬ程痛んだ。中指に桃色のペンだこが出来たのを、情けない気持で見ながら、年中帯封を書かされるのなら、やり切れぬなと思った。

(働くとはこんなに辛いものか)とすっかり驚いた気持で、しきりに無味乾燥なその仕事を続けていると、三時が来て、社長の妻君がお茶をいれてくれた。