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せいしゅんのぎゃくせつ

青春の逆説

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《青春の逆説(せいしゅんのぎゃくせつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,593 字 · 325 頁

青空文庫

いや、逃げられるぐらいならまだ良い方だ。「キャッ!」と、声を立てられたりなぞすれば、眼もあてられない。しかも、その可能性はどうやら無限大だった。女はべつに好意を示しているわけでもないと、豹一は思っていた。それどころか、どうやら軽蔑していると思われる節もある。冬空にオーバーもなしに、柄にもない喫茶店へまぎれ込んで来た男など、充分軽蔑に価する筈だ! おまけに女は歯切れの良い東京弁と来ている。

だからこそ、握り甲斐もあるわけだと、そんな妙なことを思いついた自分を、豹一はいますっかり後悔していた。しかし、乗り掛った船だった。それが実行出来ないようでは、死んだ方がましだと、豹一は「ひるむ心に鞭あてた」気持を振い起していた。自然、声も出る。

「……九十八……」あと二つだ。

「手相を見てやろう」などといって、こそこそ握るようなやり方では駄目だぞと、豹一は咄嗟に自分に言いきかせた。

「……九十九……」

九十九・五というのはない。ぐっしょり汗をかいた。一秒だった。

「百!」

豹一は無我夢中で手を伸した。そして女の手を掴んだ。手は引込められようとした。豹一はあわててぐっと力を入れた。