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せいしゅんのぎゃくせつ
青春の逆説
織田 作之助
線上閱讀織田 作之助《青春の逆説(せいしゅんのぎゃくせつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,593 字 · 325 頁
そんなに早く帰ってしまうと思っていなかった。泊って行くものと決めていたのである。彼女の女主人とどういう関係の男か見当もつかなかったが、ともあれ泊って行ってほしかった。それが言葉も掛けずに、帰ってしまったのである。寂しかった。(私のような女中風情には言葉も掛けて下さらぬのが当り前だ)
しかし、なにも女中だけには限らなかった。いくらか違うが、彼女の女主人だってそれに似た気持を味わされてしまったのだ。女中がはいって行った時、多鶴子は長椅子に腰を掛けたまま、身動きもせずに、呆然としていたのである。
「お泊りじゃございませんでしたのね」女中がそう言った時、多鶴子ははじめてわれにかえった。
「わかってるじゃないの。誰が泊めるの? あんな新聞記者!」多鶴子は叱りつけるように言った。
実は彼女は豹一を引止めた時、夜更けのことでもあり、泊めてやるべきだと思っていた。ところが、女中にそう言われてみると、なにかそんな自分の考えははしたないもののように思われたのだ。帰りぎわに豹一が言った「もうこんなに更くなりましたから……」という言葉が、妙に皮肉な響きをもって想い出されるのだった。