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せいしゅんのぎゃくせつ
青春の逆説
織田 作之助
線上閱讀織田 作之助《青春の逆説(せいしゅんのぎゃくせつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,593 字 · 325 頁
豹一は立って、不参加を表明した。赤井も、「裸ダンスの方が不穏当ではないか」と反対意見を述べて不参加と決ったのである。
窓の外を見ていると、教室へぬっと黒い顔を出した男があった。野崎だった。
「君、仮装に出ないの?」と豹一が言うと、野崎は眼鏡の奥で眼をパチパチさせて、
「俺は出えへんのや。練習せえへんかってん」と未だ大阪訛の抜け切らぬ口調で言って、黒い顔をちょっと赧くした。ああ、そうかと豹一は思い当った。野崎はひどく忘れっぽい男で、教室でもたびたび教科書を忘れ、隣の豹一の机へ自分の机を寄せて、「ちょっと見せてんか」とこれが三日に一度である。その都度、気の毒そうに、「君も大阪やろ? 大阪へ帰るんやったらわいの定期貸したるぜ」というのだった。彼は毎日大阪から通学していたのである。
「君はどうするんだ? 定期無しで……?」と訊くと、
「わいは京都で待ってるさかい、大阪へ着いたら直ぐ定期を速達で送ってくれたらええのや」
その間待っているつもりなのかと、豹一は野崎の底抜けのお人善しに驚いてしまった。彼が忘れるのは教科書だけでなく、例えば自然科学の時間などに、べつの合併教室へ移動するのを忘れ、ぽかんとひとり教室に坐っていることがよくある。