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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《顎十郎捕物帳(あごじゅうろうとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,674 字 · 36 頁

青空文庫

それを誰かが、なにか金目なものと思いこみ、拾ってかかえて来たが、さて、あけて見たところが、ただの空箱。……なんだ、つまらねえ、で、行きずりに垣根越しにあなたの家のなかへ投げこんだ。……掏摸などがよくやる手で、盗んだ財布から金だけ抜きとり、財布のほうはところかまわずそのへんの縁の下へ投げこんで行く。そんな例はザラにあるんです。……運わるく投げこまれたのがあなたの家で、それが、あなたの不幸、と言ったようなわけ、……いかがですか、たしかにおわかりになりましたな」

それから一刻ほど後、顎十郎はブラリと加賀の大部屋へあらわれる。為と寅を空地へ呼びだして、

「……寅に為……よくやったな」

二人は、あっけに取られて、

「よくやった……だしぬけに、なんです」

顎十郎は、へへら笑って、

「駕籠がひっくり返ったはずみに、氷の箱が駕籠から飛びだして、土手下の草の中へころがりこんだ。……青地のせがれが大熱で、たいへんに氷をほしがっていることを知っている。こいつぁ、いい、で、互いに眼顔で知らせ、わッ、あの侍、お氷の箱をかかえて逃げて行きやがる、と騒いだな。氷見役人などはみな頓痴気だから、そりゃ、大変、で追いかける。