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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《顎十郎捕物帳(あごじゅうろうとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,783 字 · 22 頁

青空文庫

……これも心得のあることである。

それから、ややしばらく、さむらいものの籠手になにかチラと気勢がうごく。

はッと息をつめていると、沖に直にのべた手の拳も膝もゆらりとも動かず、ただ、竿先だけが虚空に三寸ばかりの新月をえがいたと思うと、どういう至妙の業によるのであろう、鈎先は青鱚をつけたまま、おのずからはね返って魚籠の中に入った。業というか気合というか、なににせよ、剣道の至奥にも疏通した、すさまじいばかりの気魄であった。

「どうだ、ひょろ松、合点がいったか」

ひょろ松は、額にびっしょりと冷汗をかき、

「おそれ入りました」

「間違いはねえだろう」

「まぎれもございません」

「喉の鎌形傷の始まるまえに、きまって切ッ先が戦いだような傷があるだろう。あれは、竿を合せる前にチラと籠手へかかった気合傷だ」

「よくわかりましてございます」

「それにもうひとつ。鱚がはね返って来た時、なんとも微妙に身体をひねって魚をよけたが、あれは返り血をよけるこつとおなじようだ。……剣術が先か魚釣りが先か、おれにはどちらともわからねえが、おそらくたいへんな修業をしたものだ。……鱚を釣って人の喉を鎌形に抉る練磨をつむなどというのは、だいぶ格はずれな執心だの。