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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《顎十郎捕物帳(あごじゅうろうとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,022 字 · 36 頁
幸いあたりに人がない。
躑躅を植えた紅葉山の土手に取っついて盲滅法に掻きあがる。
飛びこんだところが、ちょうど廟所のあるところ。築山をへだてて向うにお文庫の屋根が見える。顎十郎は、楓の古木の根元へドッカリと胡坐をかき、
「ここまで来りゃあ大丈夫。……いま、西の丸へ怪しきやつが入りこみましたから、なにとぞ、ご支配までお通じください。……支配から添奉行、添奉行から吹上奉行と手続きを踏んでいるうちにとっぷりと日が暮れる。……まあ、そう言ったようなわけだ……では、ひとつ箱を壊しにかかるか」
懐中から五寸ばかりの細目鋸を取りだして、状入口からゴシゴシと挽き切りはじめる。
刳りあけた穴から手を入れて見ると、五通の訴状が入っている。
丁寧に封じ目を解いてひとつずつ読んでいたが、五通目の最後の訴状に眼を走らせると、
「うへえ!」
といって、首をすくめた。
女々しいことですが、わたくしは前の本性院様の側仕えの八重と申す女に捨てられた男でございます。
その怨みを忘れることが出来ませんので、意趣を晴らすため、八重の一派が企ておる謀叛の事実をここに密訴いたします。
一味と申しますのは大老水野越前守、町奉行勘定奉行鳥居甲斐守、松平美作守支配、天文方見習御書物奉行兼帯渋川六蔵、甲斐守家来本庄茂平次、金座お金改役後藤三右衛門、並びに中山法華経寺