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いずこへ
風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇
線上閱讀坂口 安吾《風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇(いずこへ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 頁
「いや、別に(と少しびっくりした医者が答えた)頭は良くもならないでしょうが、併し悪くなることもないでしょう」
★
敵ながら天晴と言いたい穏当な名答。ところが先生みるみる悄気かえった。とうてい我々に理解のつきかねる深刻さをもって断頭台の人の如く顔色を改めたそうである。
「そのときのなさけない悲しさといったら、君君君」
と、私に当時を物語りながら追憶を新らたにした先生の有様は、そのときでさえ声涙ともにくだる底の身も世もあらぬものだった。
「病気を治すものは薬よりも気持です」と爾来意気全く消沈した先生に向って医者は熱心にさとした。
「とかく日本人は病室の壁ばかり睨んで、めいった気持を深めてしまうようです。西洋人は気がめいると、ちょっと立ち上って窓から外を眺めてきます。それだけのことでも大変な違いだと思いませんか」
ところが又この平凡な忠告がひどく先生に利いた。先生積年の人生観に革命を起したが如く意外の感動をもって共鳴したのである。その時から先生旺に立ち上って窓外の景色を眺め遂に美事に退院のはこびとなった。
「じっさいに君、病気は気の持ちようだよ。また僕達の人生もそうだよ、君」