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いずこへ

風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇(いずこへ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 頁

青空文庫

これが娘と私との最後の別れであった。

私も、亦、矢田津世子を恨む心はなかった。なじる心もなかった。矢田津世子は、私に向い、一緒に旅行しましょうよ、登山したい、山の温泉へ泊りたい、と言う。私はただ笑い顔によって答え得るだけだ。その笑い顔は、私の心はあなたのことで一ぱいだ、いつもあなたを思いつづけている、然し、私はあなたと旅行はできない。旅行して、あなたの肉体を知ると、私はWと同じ男に成り下るような気がするから。あなたにとって、私が成り下るのではなく、私自身にとって、Wが私と同格になるから。私はあなたに就いて、Wのことなど信じたくないのだ。それを忘れてしまいたい。それを知らずにあなたを恋したあのままの心を、私は忘れたくないのだ、と。もとより私の笑い顔がそのような意味であることを、矢田津世子が解きうる由もない。

河田誠一が矢田津世子を訪ねたのも、その頃だ。なぜ坂口と結婚しないか、それをすすめるために。その話を、私は河田から告げられず、矢田津世子から、きかされたのだ。

その知らせには、たしかに意味があった。なぜあなたは結婚しようと言わないのか。言ってくれれば、私はいつでも結婚するのに、という意味が。