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いずこへ

風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇(いずこへ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 頁

青空文庫

のが役目であった。公費患者は一ヶ月の食料が一人当三円というので、殆んど残飯だけを食わされていたらしい。

辰夫の母は、これが又私の苦手であった。重なる不幸でヒステリイが激していた所為もあるし、本来辰夫に遺伝するだけのものを此の人も充分具えていたから、話が世の尋常とは余程異っていた。

「ふふん、気狂いは決して治る病気ではありませんよ――」

と黄色い顔に歴々と冷笑を泛べて、ひどく私を軽蔑するのであった。そして、「気狂いのくせにバタが欲しいなんて斯んな僭越な奴があるでしょうか、ねえ貴方……」ひどく馴れ馴れしく斯う言い乍ら、遂に私をも同腹一味の徒党にして頻りに辰夫の悪口を私と共に語りたいとするのであった。彼奴は発狂の当初妾を殺そうとしたとか、今度彼奴が娑婆へ出たら本当にしめ殺されて了う等とゾッと顫え乍ら、又急に私の顔を眺めてニヤニヤと冷笑を送ったりする。私は仕方がないので、「どうもお気の毒です」とか、「ごもっともです」と至極丁重にお辞儀をして、その日はそれなり帰るのである。私は斯んなに頼りない男であった。

私は辰夫に、昨日は多忙で君の家へ廻れなかったと佯りを言わねばならなかった。