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いずこへ

風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇(いずこへ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 頁

青空文庫

父は大人であった。夢がなかった。加藤高明には、妙な幼さが私の心にやにわに通じてきた。私はすぐホッとした気持になっていた。そして私の父のスケールの小ささを痛切に感じたのである。私はそのとき十八であった。

父は客間に「七不堪」という額をかけて愛していたが、誰だか中国人の書いたもので、七の字が七と読めずに長の字に見え、誰でも「長く堪えず」と読む。客がそう読んで長居をてれるからおかしいので父は面白がっていたが、今では私がたった一つ父の遺物にこれだけ所蔵して客間にかけている。又父はその蔵書印に「子孫酒に換ふるも亦可」というのを彫らせて愛しており、このへんは父の衒気ではなく多分本心であったと思うが、私も亦、多分に通じる気持があり、私にとってもそれらが矢張り衒気ではないのだが、決して深いものではなく、見様によっては大いに空虚な文人趣味の何か気質的な流れなので、私はいつも淋しくなり、侘しくなり、そして、なさけなくなるのである。

私の父は代議士の外に新聞社長と株式取引所の理事長をやり、私慾をはかればいくらでも儲けられる立場にいたが全く私慾をはからなかった。又、政務次官だかに推されたとき後輩を推挙して自分はならなかった。