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いずこへ
風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇
線上閱讀坂口 安吾《風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇(いずこへ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 頁
青空の下へ自分一人の天地へ! 私は白痴の切なさを私自身の姿だと思っていた。私はこの白痴とは親しかった。私は雨の日は別邸へ白痴を訪ねて四目置いて碁を教えてもらうことが度々あったのである。
ゴミタメを漁り野宿して犬のように逃げ隠れてどうしても家へ帰らなかった白痴が、死の瞬間に霊となり荒々しく家へ戻ってきた。それは雷神の如くに荒々しい帰宅であったが、然し彼は決して復讐はしていない。従兄の鼻をねじあげ、横ッ腹を走るついでに蹴とばすだけの気まぐれの復讐すらもしていない。彼はただ荒々しく戸を蹴倒して這入ってきて、炉端の人々をすりぬけて、三畳のわが部屋へ飛びこんだだけだ。そしてそこで彼の魂魄は永遠の無へ帰したのである。
この事実は私の胸に焼きついた。私が私の母に対する気持も亦そうであった。私は学校を休み松林にねて悲しみに胸がはりさけ死ぬときがあり、私の魂は荒々しく戸を蹴倒して我家へ帰る時があっても、私も亦、母の鼻すら捩じあげはしないであろう。私はいつも空の奥、海のかなたに見えない母をよんでいた。ふるさとの母をよんでいた。
そして私は今も尚よびつづけている。そして私は今も尚、家を怖れる。