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しょくま

食魔

岡本 かの子

線上閱讀岡本 かの子《食魔(しょくま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,911 字 · 74 頁

青空文庫

天分か、教養か、どちらにしろ、もはや自分の生涯の止めを刺された気がした。この上、何をかいおうぞ。

加茂川は、やや水嵩増して、ささ濁りの流勢は河原の上を八千岐に分れ下へ落ちて行く、蛇籠に阻まれる花芥の渚の緑の色取りは昔に変りはないけれども、魚は少くなったかして、漁る子供の姿も見えない。堤の芽出し柳の煙れる梢に春なかばの空は晴れみ曇りみしている。

しばらく沈黙の座に聞澄している淙々とした川音は、座をそのままなつかしい国へ押し移す。鼈四郎は、この川下の対岸に在って大竹原で家棟は隠れ見えないけれども、まさしくこの世に一人残っている母親のことを思い出す。女餓鬼の官女のような母親はそこで食味に執しながら、一人息子が何でもよいたつきの業を得て帰って来るのを待っている。しばらく家へは帰らないが、拓本職人の親方の老人は相変らず、小学校の運動会を漁り歩き遊戯をする児童たちのいたいけな姿に老いの迫るを忘れようと努めているであろうか。

鼈四郎は、笑いに紛らしながら、幼時、母子二人の夕餉の菜のために、この河原で小魚を掬い帰った話をした。「いままで、ずいぶん、いろいろなうまいものも食いましたが、いま考えてみると、あのとき母が煮て呉れた雑魚の味ほどうまいと思ったものに食い当りません」