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しょくま

食魔

岡本 かの子

線上閱讀岡本 かの子《食魔(しょくま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,911 字 · 74 頁

青空文庫

責任感が軽くて世話をして呉れる老女は便利だった。しかし生きてるうちは好みに殉じ死に向ってはこれを遊戯視して、一切を即興詩のように過したかに見えた檜垣の主人が譫言の無意識でただ一筋、世俗的な糸をこの世に曳き遺し、それを友だちの自分に絡みつけて行って、しかもその糸が案外、生あたたかく意味あり気なのを考えるのは嫌だった。

伯母が世話をして呉れた下町の三四の有力な家の中で、鼈四郎は蛍雪館の主人に一ばん深く取入ってしまった。

蛍雪館の主人は、江戸っ子漢学者で、少壮の頃は、当時の新思想家に違いなかった。講演や文章でかなり鳴した。油布の支那服なぞ着て、大陸政策の会合なぞへも出た。彼の説は時代遅れとなり妻の変死も原因して彼は公的のものと一切関係を断ち、売れそうな漢字辞典や、受験本を書いて独力で出版販売した。当ったその金で彼は家作や地所を買入れ、その他にも貨殖の道を講じた。彼は小富豪になった。

彼は鰥で暮していた。姉のお千代に塾をひかしてから主婦の役をさせ、妹のお絹は寵愛物にしていた。蛍雪の性癖も手伝い、この学商の家庭には檜垣の伯母のようなもの以外出入りの人物は極めて少かった。