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こうでん
香奠
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《香奠(こうでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 頁
そして彼は毎日出かけてゆきました。その往き返りを、電車にも乗らずに必ず徒歩でやるのです。
「電車に乗ったらいいでしょう。」と私は何度も云いました。「余り歩くと疲れて、勉強の邪魔になりはしませんか。」
「いえ、歩むのには馴れとりますから何でもありません。毎日あれくらいは歩む方が身体のためになります。」
そして頑固に徒歩主義を続けているうちに、東京の雨や雪は横から降るということを彼は発見しました。
母上
東京は一体に風の多い処です。殊に一月の末頃からは猛烈な北風が吹き続けます。雨や雪の降る日などは、いくら傘を上手にさしても、歩き続けようものなら、膝から下はずぶ濡れになってしまいます。家にいる時には風がないような気がしていても、一足街路に踏み出すと、全く横から雨や雪が降っています。
「国ではそんなことはありません。雨やら雪は真直に降るときまっとります。」
そう云って平田伍三郎は、大発見でもしたようににこにこしていました。そしてその発見を楽しむかのように、雨や雪の中も平気で歩いて戻ってきて、女中を困らしたものです。彼の着物は前に申しました通り、馬鹿に沢山綿がはいってるものですから、ぐっしょり濡れてる膝から下を乾かすのに、女中はいつも眉をひそめたのです。