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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 頁

青空文庫

ウウム。これじゃまた阿波へ足ぶみをする道順が、百倍も千倍も大困難になってきたわえ」

腸をしぼるような万吉の呻きをきいて、お綱も落胆のあまりそこへ坐ってしまいたくなった。進んでいいか退いていいか、その利害を思慮してみる勇気さえない。

垂井まで行けば、弦之丞にも会えるだろうし、国分寺の印可をうけて、目的地への渡海もたやすくできるものと、互に励ましあってきただけに、二人は希望の目前を絶壁に塞がれて、茫とした当惑に立ちつくしてしまった。

すると、坂の中腹、少し平地になった草原と空茶店から、ひとりの武士、いたちのように顔を出した。

こなたの高札場に立っている、お綱と万吉のうしろ姿を眺めて、首を引っこめたかと思うと、こんどはその中から四、五人の侍が飛びだして、青い夕闇をすかしているような眼ざし。

指さしながら、何かひそひそとささやきあっていたかと思うと、やがて中のひとりが、二本の指を唇へ当てた。

と――不意に静かに、夕風をうごかして、笹鳴りの音か、水の響きかとばかり、あたりへ鳴ってひろがったのは呼子の笛――。

赤い芽をもった樫の林に、ありやなしやの宵月がほのかだ。